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学生の活動

SDS研究科生(修士課程)へのインタビューを行いました

2023. 06. 08
教育研究

一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科(修士課程)が開設され、2023年4月に22人の1期生を迎えました。広報担当の加藤諒准教授が、第1期生のお二人に、志望動機や受験対策、受験生へのメッセージなどをインタビューしました。

■児玉広樹さん
法学系の学部出身。学部時代は法律の他に外国の歴史・文化などを学ぶ。卒業後はロースクールに進学して司法試験に合格後、中央省庁に就職し、現在に至る。

■米澤春風さん
医療系の学部出身。在学中のコロナ禍を機に、公衆衛生の予防医学にのめりこみ、医療従事者の労働生産性などの研究を行った。

■加藤諒准教授(インタビュアー)
「統計学」「会計学」「マーケティング」を利用し、企業との共同研究も進めている。専門はマーケティングサイエンス、ベイズ統計。

 

【加藤】お二人は、法学系、医療系の学部ご出身とのことですが、ソーシャル・データサイエンス研究科修士課程(以下、「本研究科」または「SDS研究科」)を志望された動機などをお聞かせいただけますでしょうか。

【米澤】卒業研究で、コロナ禍における医療従事者の労働生産性の損失を計算したり、病院経営へ発展した研究をしたりしていました。その研究を通じて、離島における病院機能が停止に追い込まれるような状況等があることがわかりました。そこから、病院という拠点一つを作れば医療へのアクセスが可能と考えるのではなく、もっと広く、エリアとして捉えて地域住民の医療へのアクセスを考えることが重要ではないか、と考えました。
 そうした研究を進めていく中で、収集したデータを眺めることや読み解くことが好きという自分の特徴を捉えていた当時の研究室の先生からSDS研究科を薦められました。併せて、病院機能を見直すうえでは、研究対象を都市として見ていくことも必要な視点だと考え、そういった視点を学べるような先生がいることも重なって、こちらを志望しました。

【児玉】私は、中央省庁で働く中で、「デジタル化の波」が押し寄せていることは感じていました。今後は、データサイエンスやコンピュータプログラムの知識を駆使する能力、加えてPM(プロジェクトマネージャー)などチームの舵取りをするような、マネジメントできる能力が自分たち官僚にも必要になってくるだろうなということがわかってはいたのですが、実際にそういった仕事ができる人材が省庁にはほとんどいないことも同時に感じていました。このままいくと早晩仕事が立ち行かなくなるだろうと懸念していた時、「データ」だけを取り扱うのではなく、「社会科学」も掛け合わせた学問を学べる研究科ができるということを聞いて、こちらを志望しました。

 
【加藤】お二人それぞれに興味関心をお持ちの領域があって、そこでやりたいことを実現させるためには、複数の視点や能力が必要であり、それらが学べるSDSを志望した、ということでしょうか。お二人は本研究科の1期生ということで、在学生・出身者などは当然おらず、出願時には情報も行き渡っていなかったかと思います。出願にあたって、どんな点に不安がありましたか?

【児玉】筆記試験の準備にあたり、社会科学(法学)はこれまでの学習があるので何とかなりました。統計やコンピュータサイエンスは、それぞれ参考文献が示されていたので全て確認したところ、分野内でも傾向が異なり、どの参考書を使用すればいいのか、というところに悩みました。迷った末に自分なりに試験対策の範囲を設定し、参考書を絞って勉強したら、見事に外れました(笑)
 ただ、社会科学には自信があったので、統計学・情報学については、最低ラインをとれるように頑張ろうと思っていました。統計と数学、データサイエンス、法学、経済学系の出身でなければかなりきつい試験対策になるだろうと思います。

【米澤】私は、試験までに到達しなければいけないレベルや範囲までのギャップが広いと思いました。特に私の場合は、社会科学系の分野にも触れてこなかったので、どちらの分野も「はじめまして」な状態からやっていきました。どちらかにバックグラウンドを持っている方が対策の傾向は立てやすいだろうなと思いました。
 医療系の学部では、数学を活用する場面が少ないので、試験対策の勉強では大学数学から学びはじめました。結構早めから独自に数学の対策を行い、その後示された参考書をもとに勉強をしました。SDSの試験対策を始めたのは夏ごろからになります。
 社会科学の方は、学部時代に資格試験の勉強をしていた際に、試験範囲内に経営学があったので、経営学だけ先取り勉強をしました。そういったバックグラウンドがあったことが強みになったかと思います。

 
【加藤】お二人に限らず、やはり受験生の一番の不安事項は、「社会科学」と「統計学・情報学」の両方を受験しなければならない筆記試験ということでしょうね。実際に試験を受けてみて、手ごたえはどうでしたか?

【児玉】社会科学の方は自信がありましたが、勉強が間に合いそうだからという理由で選択した「情報学」の問題の方は、まぁまぁ、という感想です。
 選択してはいないのですが、統計学の選択問題は、純粋な文系出身者の自分としては、線形代数、微分・積分、確率、多変量解析、集合と位相あたりを理解していないと、問題に食いつけないだろうな、という感想を持ちました。問題を解く中でそれらを直接的に使うというよりは、総合的な知識を持っていてこそ解法にたどり着けるのかな、と。というのも、示された参考書の中身がそういった分野を順番に総ざらいするような内容だったので、あの参考書を示されて、範囲の多さに目の前が真っ暗になる人もいただろうな、と思いました。個人的にはもう少し取り掛かりやすい参考書を示してもらえればよかったなと思います。

【米澤】私は、実際の試験では「統計学」を選択して、わかりそうなところを頑張って埋めました。
 また、社会科学系の問題は現実に即した問題が出たな、と思いました。私は経営学を選択したのですが、割と手ごたえがありました。また、経済学を解いたという同級生の話を聞くと、面白い問題だったと言っていました。

 
【加藤】ありがとうございます。これまで、ご自身の対策と手ごたえについてうかがってきましたが、それらをふまえて、これからの受験生に何かアドバイスはありますか?

【米澤】試験対策は、「社会科学」「統計学・情報学」のうち、自分が得意な方を堅実に押さえつつ、もう一方の不安がある方に注力しながら勉強するのがいいかな、と思います。また。レベルや系統がわかるだけでも違うので、今年からは過去問を見ることをおすすめします。
 視点を変えて、筆記試験以外のことでいうと、研究計画や英語の資格試験を先にクリアしておかないと、やることが積み残されていくので、他に不安を残さないためにも早めに着手することをおすすめします。
 研究計画は、精度の高い研究計画を立てられるように、ふわっと自分がしたいこと、使いたいデータなどをまとめて、出願前に先生に相談しました。特に意識したのは、社会科学とデータサイエンスの「融合」の観点です。現実の社会課題とデータサイエンスをどうリンクさせるか、という点を読み手に伝わりやすように書くことを意識しました。

【児玉】直接試験に影響があるかはわかりませんが、線形代数と微分・積分については、特に文系出身の方は取り組んでおいた方がよいと思います。法学系といいますか、文系出身者は、数学Ⅲを学んでいることが少なく、数学Ⅱ・数学Bまでの知識で大学受験に臨むことが多いかと思います。また学部在学中にそれ以上の数学を受動的に学ぶことも多くはないので、教科書で指定されなくとも基礎的な数学は網羅しておいた方が、入った後にも役に立ちます。私は今必死に勉強して追いかけています。
 私は研究計画書とは、というところから始まったのですが、その作成過程では、出身大学の先生などに研究計画について一度相談し、意見をもらうことが重要だと思いますね。

 
【加藤】ありがとうございます。それでは、実際にSDSの授業を受けてみて、想定通りだったこと、想定外だったことなどあるかと思いますが、どのような印象を持たれましたか?

【児玉】入る前に想定していた研究計画がありましたが、実際に授業を受けてみて新たな視点、例えば線形代数を用いたデータ処理方法などが見えてきました。そのため計画を変更したのですが、それに関連した勉強をフルタイムで働く傍らに並行して行わなければいけないので、兼ね合いが難しいです。
 また、開設直後ならではとも言えますが、教員陣を含め、研究科の雰囲気といいますか、分野間での共通認識が未完成なことも感じます。お互いの分野からの視点だけに留まらず、別分野を取り込んだ上での視点を作り上げたり、それぞれの分野が融合した領域で研究を進めたりしていくことが、これからの課題だと思います。

【米澤】先生や分野によって、求められていることが違う、というのは感じます。やはり各々の研究分野からの視点や感覚が特色として出てくるので、それぞれの授業で感じる世界が違うと思います。
 ただ、今まで見慣れなかった世界に触れられる機会がたくさんあることはいいことでもあり、情報収集のためのアンテナを増やすことができたと思います。もちろん、全てを吸収しよう、極めようと思うととても体力がいります。そのため、私としては、自分の研究したいことや興味関心の軸を持ちつつ、関連知識を得るために別視点でのノウハウを学んでいるというスタンスでいるのも一つかな、と考えています。

 
【加藤】ありがとうございます。幅広い領域が学べることはSDSのメリットですが、その環境を活かしていくためにも、教員・学生どちらも、自身の軸を持ちつつ、異なる領域への興味・関心を持ち、理解しようとしていくことが重要ですね。最後に、受験生に向けてメッセージをお願いします。

【児玉】皆さんそれぞれに、これまで修得してきた分野があると思いますが、それ以外の分野にも視野を広げたい人におすすめの研究科です。あと、入学前に、文系の人は数学を勉強し、理系の人は公民の教科書を読んでおくことをおすすめします。

【米澤】データサイエンス、と一口に言ってしまえば簡単ですが、世界にあふれるたくさんのデータに興味がある人、そのデータを活用して何かしたい人、それらに加えて、興味関心のある特定の分野をお持ちの方は、たくさんの視点を勉強できるので、毎日ワクワクしながら勉強することができると思います。