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【解説】JRトレインチャンネルの問題について(12/12~18)

2022. 12. 11
教育研究

【問2】近年の技術革新に伴い、高解像度の衛星画像が入手可能となってきている。衛星画像には、非常に広範囲かつ経時的に得られるというメリットがある。このようなメリットをふまえて、衛星画像を用いた、社会・経済問題への応用を提案せよ。

■出題の意図
本問題は、技術革新がもたらすデータサイエンスの発展が、社会科学が対象としてきたビジネス・イノベーションや社会課題解決への貢献に対して、どのような影響を与えるのかを考えていただくために出題いたしました。
データサイエンスは、情報技術の社会への浸透によって利用可能となった膨大なデータを、現在のコンピュータの強力な計算能力を用いて分析をし、統計学、機械学習、AI(人工知能)の知見を活用することで有用な知見を引き出すことを目的とした「データ駆動型」の学問分野です。実際に、近年、データから新たな知見や洞察を得るためのツールや手法、それらに関連するアルゴリズムが次々と開発されてきました。具体的には、大量の数値データを高速で分析できるような技術や、数値データ以外の言語データや画像データを分析できるような技術などが挙げられます。これにより、多くの科学分野が好影響を享受するとともに、さらにビジネスにおけるイノベーションや、現実社会における課題解決への貢献が期待されています。
本問題では、衛星画像という画像データの活用方法を題材としています。一般的な衛星画像の活用方法としては、気象予測というイメージが強いかと思いますが、実は様々な社会・経済問題の解決のための示唆を得るために活用することが可能です。以下の解説を通じて、ソーシャル・データサイエンスの幅広さと面白さを感じ取っていただければ幸いです。

■解説
衛星画像の広範囲かつ経時的に得られるというメリットを生かして、たとえば、以下のような社会・経済問題に応用することが可能です。

【例1】衛星画像を用いて、店舗駐車場の混雑状況をデータ化し、その集客力や業績を予測することで、経営改善への示唆を得ることができます。
企業によるサービス導入事例:Orbital Insight – Japan|オービタルインサイト日本公式ウェブサイト

【例2】衛星画像を用いて、原油タンクの画像から原油の残量がわかります。原油タンクの屋根は固定式ではなく、原油の上に浮いています。そのため、壁面の影の大きさから浮き屋根の高さを測定することで残量を推定することができます。エネルギー需要を予測することで、投資判断や景気予測への示唆を得ることができます。
企業によるサービス導入事例:Orbital Insight – Japan|オービタルインサイト日本公式ウェブサイト

【例3】衛星画像を用いて、都市部の夜間光の画像から貧困率や経済活動などをデータ化し、発展途上国における経済状況を予測することで、貧困問題への示唆を得ることができます。
参考文献:Jean, N., M. Burke, M. Xie, W. M. Davis, D. B. Lobell, and S. Ermon (2016) “Combining Satellite Imagery and Machine Learning to Predict Poverty” Science, vol 353, Issue 6301, pp. 790-794 Combining satellite imagery and machine learning to predict poverty – PubMed (nih.gov)

【例4】衛星画像を用いて、世界各地の森林の画像をデータ化し、森林減少の状況の変化をモニタリングすることで、二酸化炭素吸収量の推定や森林保護計画の策定などを行い、地球温暖化問題への示唆を得ることができます。
参考文献:Finer, M., S. Novoa, M. J. Weisse, R. Petersen, J. Mascaro, T. Souto, F. Stearns, and R. G. Martinez (2018) “Combating Deforestation: From Satellite to Intervention” Science, vol 360, Issue 6395, pp. 1303-1305 Combating deforestation: From satellite to intervention | Science

このように、データサイエンスの最先端の技術を用いることで、ビジネス・イノベーションや社会課題解決への貢献が可能となることがわかっていただけたかと思います。
ただし、高解像度の衛星画像が入手可能となってきたという技術革新のみでは、ビジネス・イノベーションや社会課題解決への貢献は困難です。技術革新に先立ち、例に挙げたような、人間社会にとって重要な「課題」を認識していたことで、それらに対する「応用」として、革新的技術を活用することが可能になったと言えます、そして、そのような人間社会にとって重要な課題は、これまでに社会科学が扱ってきたものです。
すなわち、社会科学の学びを通して、人間社会にとって重要な課題を認識・理解し、それらを解決するために、データサイエンスの学びを通して得られた最先端の技術を活用することで、ビジネス・イノベーションや社会課題解決に貢献することができると考えられます。
本学部・研究科では、社会科学とデータサイエンスの両方を体系的に修得し、それらの知識を演習科目等の機会を通じて融合することによって、現代社会における様々な課題を解決できる人材を養成する、「ソーシャル・データサイエンス」教育を推進します。